

B5で仕上げたいのに、B4原稿で描くと線が83%に縮んで別物になります。
漫画の原稿を描き始める前に、まず押さえておきたいのが「用紙サイズの数値」です。同人誌・商業誌を問わず、印刷所への入稿時には必ず正確なサイズ指定が求められます。数値を把握しておくことで、キャンバス設定のミスを防ぐことができます。
以下に、漫画制作でよく使われる主要なA判・B判のサイズをまとめました。
| サイズ名 | 寸法(mm) | 漫画・同人誌での主な用途 |
|---|---|---|
| A3 | 297 × 420 | 大判イラスト集・ポスター |
| B4 | 257 × 364 | 商業誌・投稿用の原稿サイズ(描く用紙) |
| A4 | 210 × 297 | 同人誌用の原稿サイズ(描く用紙)・大型イラスト集 |
| B5 | 182 × 257 | 漫画同人誌の仕上がりサイズとして最も一般的 |
| A5 | 148 × 210 | 4コマ系・小説兼用同人誌の仕上がりサイズ |
| B6 | 128 × 182 | 青年漫画コミックス・一般的な単行本サイズ |
| 新書 | 113 × 176 | 少年漫画コミックス・小さめ単行本 |
| A6 | 105 × 148 | 文庫本・ライトノベル |
B5サイズは縦257mm×横182mmで、週刊少年ジャンプなどの雑誌とほぼ同じサイズです。手のひら2枚分ほどの大きさをイメージすると分かりやすいです。A5はその半分で、一般的な教科書くらいのサイズです。
「B判はA判より少し大きい」とだけ覚えておけば大丈夫です。どちらの系列も、数字が1増えるごとに面積が半分になる仕組みになっています。
参考:用紙・書籍のサイズ一覧(シメケンプリント)
https://shimeken.com/print/papersize
漫画を描き始めて最初に混乱しやすいのが「原稿サイズ(描く用紙)」と「仕上がりサイズ(完成した本のサイズ)」が別であるという点です。この違いを理解していないと、せっかく描いた原稿が想定と違う大きさで印刷されてしまいます。これは痛いですね。
商業誌の場合、プロの漫画家はほとんどB4サイズ(257×364mm)の原稿用紙で描いています。しかし実際に読者が手にする週刊誌や単行本はB5サイズです。B4で描いた原稿は印刷時に83%に縮小されてB5になります。なぜわざわざ大きく描くかというと、細い線や小さなトーンの粗さが縮小によって目立ちにくくなり、仕上がりが美しくなるためです。
同人誌の場合は少し事情が異なります。同人誌用の原稿用紙はA4サイズ(210×297mm)が標準で、この原稿が印刷されるとB5の同人誌になります。縮小率は約82%です。
| 描く用紙(原稿サイズ) | 仕上がりサイズ | 縮小率 |
|---|---|---|
| B4(投稿用) | B5 | 約83% |
| A4(同人誌用) | B5 | 約82% |
| A4(同人誌用) | A5 | 約67% |
| B5原寸(同人誌用) | B5 | 100%(原寸) |
デジタルで描く場合は、Clip Studio PaintやMediBangなどのソフトで原稿設定をする際に「仕上がりサイズ」を選べば、自動的にトンボ付きの正しいキャンバスが生成されます。つまり「仕上がりB5」と設定するだけでOKです。
原稿サイズを間違えたまま入稿してしまうと、印刷所側で対応できず差し戻しになることがあります。原稿作成前に印刷所の入稿ガイドを必ず確認することが大切です。
参考:同人誌の仕様・原稿用紙の基本ルールについて(金沢印刷)
https://www.kanazawa-p.co.jp/genkousakusei/kihon.html
サイズと並んで必ず設定しなければならないのが解像度(dpi)です。解像度とは1インチ(約25mm)の中に何ドット入るかを表す数値で、この設定を間違えると印刷した際に線がぼやけたり、トーンにモアレ(規則的なノイズ縞模様)が発生したりします。これが原稿制作で最も多い失敗のひとつです。
漫画制作における解像度の基本ルールは以下のとおりです。
| 原稿の種類 | 推奨解像度 | 理由 |
|---|---|---|
| モノクロ漫画(線画・トーン) | 600dpi以上 | 細い線やトーンのドットを鮮明に再現するため |
| グレースケール原稿 | 350〜600dpi | グラデーション表現のバランスをとるため |
| フルカラー原稿(表紙など) | 350dpi | 印刷所の標準基準で十分な品質が得られるため |
具体的なイメージで説明します。B5サイズ(182×257mm)のモノクロ原稿を600dpiで設定すると、ピクセル数は横約4,535px×縦約6,071pxになります。これはフルHDの約13倍の解像度です。これだけの情報量があるからこそ、0.3mmほどの極細の線も鮮明に印刷できます。
モノクロ漫画を350dpiで作成してしまった場合、後から600dpiに変換しても品質は戻りません。元のドット数が少ないため、無理に引き延ばすと線がぼやけてしまいます。解像度は原稿の新規作成時にのみ正しく設定できます。後から変更はできないと思って設定してください。
なおデジタル作画ソフトでは、新規キャンバス作成時に「印刷用」「商業誌用」などのプリセットを選ぶと自動で適切な解像度が設定されます。初心者はこのプリセットを活用するのが最も確実です。
参考:同人誌をデジタルで作る理由【同人誌のキホン⑥】(CLIP Studio Paint)
https://www.clipstudio.net/oekaki/archives/150114
印刷サイズを正しく理解したら、次に絶対に覚えておきたいのが「塗り足し(裁ち落とし)」です。これを知らずに入稿すると、完成した本の端に不自然な白い余白が出てしまいます。これは見栄えを大きく損なうので注意が必要です。
塗り足しとは、仕上がりサイズの外側にあらかじめ3mm分だけ余分に背景や絵柄を描き足しておくことを指します。印刷・製本の工程では、紙の断裁(裁断)が必ず行われますが、その際に機械的なズレが数mm発生することがあります。このズレに対応するためのバッファ(余白)が塗り足しです。
🔲 B5仕上がりの場合の実際のデータサイズ
- 仕上がりサイズ:182mm × 257mm
- 塗り足し込みのデータサイズ:188mm × 263mm(天地左右に各3mm追加)
「3mm」というのは名刺(91×55mm)の端から内側の部分に相当する、ごくわずかな幅です。しかしこの3mmがないだけで、断裁後に背景の一部が白く切れてしまいます。表紙イラストのギリギリまで描いた背景が、印刷後に端で白く縁取られたようになる失敗は、初心者に非常によくある事例です。
また、安全マージンも理解しておきましょう。セリフや重要なキャラクターのパーツなど「絶対に切れてはいけない要素」は、仕上がり線の内側さらに3〜5mm以内に収めることが推奨されています。仕上がり線ぴったりに描くと、断裁ズレによって一部が切れてしまうリスクがあります。
以下に各線の役割を整理しておきます。
| 線の名称 | 役割 |
|---|---|
| 内枠線(基本枠) | セリフ・コマが収まるべき範囲。ここより外に重要な絵は描かない |
| 仕上がり線(裁ち切り線) | 完成した本のサイズ。ここで断裁される |
| 塗り足し線(タチキリ線) | 断裁ズレに備えて背景を描き足す外枠。ここまで色を塗る |
市販のアナログ原稿用紙にはこれらの線がすでに印刷されています。デジタルの場合はソフトのテンプレート設定で自動的に表示されます。塗り足しがあれば安心です。
参考:塗り足しとは?作り方や3mmのルール(ローコスト印刷)
https://www.lowcost-print.com/column/塗り足しとは?作り方や3mmのルール
印刷サイズの数値を覚えただけでは、実際に「どのサイズを選べばいいか」が分からないこともあります。そこで、漫画の内容やジャンルに応じた判型の選び方を整理しておきます。
🗂 同人誌サイズ別・用途の目安
| サイズ | 仕上がり寸法 | 向いているジャンル |
|---|---|---|
| A4 | 210 × 297mm | イラスト集・画集・大判コミック |
| B5 | 182 × 257mm | 漫画同人誌の主流。週刊誌と同サイズ感 |
| A5 | 148 × 210mm | 4コマ・ギャグ系・小説と合わせた合同誌 |
| B6 | 128 × 182mm | 単行本コミックスに近い雰囲気を出したいとき |
| A6 | 105 × 148mm | 小説・文庫サイズの薄い本・折り本 |
B5サイズは「少年ジャンプ」などの雑誌と同じサイズで、漫画を見せるために最適化された判型です。1ページに多くのコマを配置でき、画面の迫力も出やすいのが特徴です。
A5サイズはB5の約82%の大きさで、持ち運びやすく手に取りやすい点が読者にも好まれます。印刷コストがB5より低くなる傾向があるため、初めての同人誌制作や少部数印刷にも向いています。
コストの観点で見ると、B5のモノクロ同人誌とA5のモノクロ同人誌では、同じページ数・同じ部数の場合でもA5のほうが印刷費を抑えやすい傾向があります。予算が限られている場合はA5を選択肢に入れるのが賢明です。
また、ページ数にも注意が必要です。A5の本は32ページ単位、B5の本は16ページ単位で印刷することが多く、この数値を外れると割高になったり製本できなかったりする場合があります。「ページ数が4の倍数」という条件は必須です。
初めての同人誌制作であれば、B5・モノクロ・20〜32ページという構成が最もシンプルで失敗しにくいです。これが基本です。
参考:同人誌の基本のサイズ(ネット印刷のWAVE)
https://www.wave-inc.co.jp/data/size/doujin.html
多くの漫画入門書には「原稿はB4かA4で描こう」と書いてありますが、初心者の中には「仕上がりサイズと同じサイズで描けばいいのでは?」と考えてB5で描き始めてしまう方が少なくありません。ここには大きな落とし穴があります。これは見落とされがちなポイントです。
たとえば「B5で仕上げる同人誌」を作るとき、B5サイズで原稿を描いてそのまま印刷所に入稿することは技術的には可能です。しかしこの方法では、縮小による線の引き締め効果が得られません。同じ描き込みをしても、仕上がりのクオリティに差が出ます。
さらに問題になるのが拡大入稿のケースです。A5サイズで描いた原稿をB5の本にしたい場合、印刷所側で122%に拡大することになります。600dpiで描いた原稿が拡大後は約492dpiに落ちます。これはモノクロ原稿の推奨解像度600dpiを大幅に下回るため、線のぼやけやトーンのモアレが発生しやすくなります。
つまり「描く用紙は仕上がりサイズより必ず一回り大きく」が原則です。
| 間違った設定 | 正しい設定 |
|---|---|
| B5仕上がりなのにB5で描く | B5仕上がりならA4(または投稿B4)で描く |
| A5仕上がりなのにA5で描く | A5仕上がりならA4で描き、縮小印刷 |
| 後から解像度を350dpi→600dpiに変換 | 最初から600dpiで新規作成する |
デジタルで漫画を描く場合は、Clip Studio PaintやMediBangなどのソフトの「テンプレート」機能が非常に便利です。印刷所名や仕上がりサイズを選ぶだけで、描く用紙サイズ・解像度・トンボ・塗り足しがすべて自動で設定されます。手動で数値を入力する手間がなく、設定ミスもほぼゼロになります。初心者はテンプレートを使うことをおすすめします。
参考:マンガ原稿制作の基本 新規作成と書き出し(Clip Studio Paint公式Tips)