

B4で描いても、出版社が違えば掲載サイズがズレて絵が見切れることがあります。
漫画の投稿規定を調べると、ほぼ必ず「B4サイズ」という記述が出てきます。B4の用紙サイズは縦364mm×横257mmで、一般的なコピー用紙のA4(縦297mm×横210mm)よりひとまわり大きいサイズです。
ところが、「B4で描けばOK」と思い込んでいると落とし穴にはまります。出版社によっては「B4原稿用紙 330〜365mm×230〜260mm(内枠270×180)」のように、より細かい数値範囲が指定されていることがあります。これは、かつて各出版社が独自の専用原稿用紙を作家に配布していた名残であり、今もその慣習がデジタルのプリセット設定として引き継がれているためです。
B4を大きく外れていなければ実務上は問題ないケースが大半ですが、投稿・持ち込みの前には必ず各出版社の応募要項を確認することが原則です。
なぜB4なのかというと、理由は明快です。漫画雑誌の多くはB5判(縦257mm×横182mm)で発行されており、B4の原稿をB5雑誌に載せると約83%に縮小されます。縮小することで線の細かな粗が目立たなくなり、画面が引き締まって美しく見える、というのが長年の制作慣行として定着したものです。「大きく描いて小さく出力する」が基本、ということですね。
また、漫画雑誌の掲載後に単行本化されると、さらに縮小がかかります。B5雑誌からB6単行本(縦182mm×横128mm)になる際は約71%、新書判(縦182mm×横103mm)になる場合はさらに小さくなります。つまり原稿は最終的に54〜58%前後まで縮小されることもあり得ます。最初から実際の仕上がりサイズで描くより大きく描くことで、細部の密度と品質が維持されます。
| 仕上がり判型 | サイズ(mm) | 主な用途 |
|---|---|---|
| B5判 | 縦257×横182 | 漫画雑誌(週刊・月刊誌) |
| B6判 | 縦182×横128 | 青年・女性コミック単行本 |
| 新書判 | 縦182×横103 | 少年・少女コミック単行本 |
| A5判 | 縦210×横148 | 学術・専門系漫画・画集など |
原稿サイズと並んでつまずきやすいのが「解像度(dpi)」と「内枠(基本枠)」の設定です。これを間違えると、線がガサガサに荒れた状態で印刷されたり、大事なセリフが見切れたりする直接的な原因になります。
解像度は必須です。商業誌向けモノクロ原稿の解像度は600dpi以上が業界標準です。600dpi未満で描いてしまうと、トーンの網点が荒れたり、細い線が印刷で消えたりすることがあります。1200dpiにすれば品質はさらに上がりますが、ファイルサイズが重くなり作業効率が落ちるため、プロの多くが600dpiを選んでいます。カラー原稿の場合は350dpiが推奨です。これが基本です。
内枠(基本枠)とはB4原稿用紙の内側に引かれた枠線で、サイズは縦270mm×横180mmが標準です。製本された際に確実に印刷される「セーフゾーン」であり、重要な絵やセリフはすべてこの内枠の中に収める必要があります。枠の外まで絵を広げる「タチキリ」表現は問題ありませんが、セリフだけは絶対に内枠内に収めましょう。
また、内枠の内側でも「ノド」と呼ばれる製本時に紙が折り込まれる部分(見開き時の中央付近)には絵や文字を寄せないことが鉄則です。ノドに描いた内容は、本になった際に奥に折り込まれて読者の目に届かなくなります。
塗り足しとは、印刷・裁断のズレを想定して仕上がりサイズより外側に約3〜5mm余分に描き足す領域のことです。背景が白い場合でも塗り足しを設定しておくと、裁断ズレで紙の端に何も塗られていない白い縁が出る「白フチ問題」を防げます。設定値は5mm以上を推奨します。
以下のClip Studio TIPS公式記事では、デジタル原稿設定の各項目についてより詳しく解説されています。
CLIP STUDIO PAINTでの商業誌向けデジタル原稿設定の詳細(各項目の意味・推奨値)
漫画を描いていて意外と知られていない事実があります。集英社・講談社・小学館・KADOKAWAの大手4社は、CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)の原稿プリセットに自社専用設定を登録していますが、その設定値がそれぞれ微妙に異なります。
集英社が最初にプリセットを導入したのは2018年12月、続いて講談社が2019年7月、小学館・KADOKAWAが2021年5月と、順次整備されてきました。しかも集英社は「集英社マンガ誌A(少年ジャンプ・マーガレットなど)」と「集英社マンガ誌B(ヤングジャンプなど)」の2種類があり、同じ出版社内でも原稿サイズが異なります。意外ですね。
この違いが生じた背景は、紙の原稿時代に各社が独自の専用原稿用紙を使っていた歴史的経緯によるものです。デジタル化が進んだ現代でも、各社がサイズを統一するメリットがなかなか見出せず、そのままプリセットとして引き継がれています。経済産業省が2015年ごろに「マンガ制作・流通技術ガイド」としてフォーマットの統一を試みたこともありましたが、最終的に統一フォーマット化には至りませんでした。
重要なのは、投稿先の出版社・雑誌のプリセットをそのまま使うことです。クリスタでは「新規作成→すべてのコミック設定を表示」から各社プリセットを選択できます。自分が投稿する雑誌のプリセットを使えば、設定ミスのリスクを大幅に下げられます。投稿先がプリセットにない場合は、応募要項の数値を直接入力しましょう。
なお、ある連載中の漫画家が自社対応プリセットの存在を知らなかったというケースも報告されています。プリセットがあっても知らなければ使えない、というのが現実です。まず確認するのが一番です。
出版社別プリセットとその背景について詳しく解説された記事です。
マンガ雑誌や出版社ごとにデジタル原稿のサイズが違う話(note)
「商業漫画はB4で描く」というのが一般的な認識ですが、一部の出版社・雑誌では「B5サイズ・原寸」での投稿を求めるケースがあります。つまり、雑誌掲載サイズと同じサイズで原稿を制作・提出するよう求められるのです。これは例外ではありません。
ある有名青年誌の応募規定では「白黒2値・原寸(B5サイズ)・原稿枚数制限なし」という指定が存在します。原寸描きの場合、縮小によって線を美しく見せるアドバンテージはなくなりますが、デジタル制作において解像度を高めに保てば品質を担保することができます。
B5指定が多い媒体は、青年誌や特定の電子専用誌が中心です。また一部の媒体では、最初からデジタル入稿・電子配信が前提となっているため、縮小前提のB4制作より原寸B5での制作が合理的とされています。
つまり、「商業漫画=B4で描く」という公式は常に正しいわけではありません。B4が基本ですが、投稿先の応募要項を確認することがすべての前提です。応募要項の確認は最初の一歩です。
もし投稿先の規定が「B4」なのか「B5原寸」なのかで迷ったときは、出版社の公式サイトに記載された応募要項を確認するか、直接問い合わせるのが確実です。せっかく描き上げた作品がサイズ不備で受け付けてもらえないのは、時間的にも精神的にも大きなロスになります。
近年、急速に普及しているWebtoon(ウェブトゥーン)や縦読みカラー漫画は、従来の横読み商業漫画とはサイズの考え方がまったく異なります。横読みの紙面制作では「mm単位のB4・B5」が基準でしたが、Webtoonはピクセル(px)と解像度の組み合わせで管理します。
Webtoonの標準的なキャンバス設定は横幅800px〜1600px、縦は1話あたり10,000px〜20,000pxとなっています。解像度は印刷ではなく画面表示が前提のため350dpiが推奨値です。クリスタのプリセットでは「横1600px×縦20000px(350dpi)」が最大幅のWebtoon設定として登録されています。
フルカラーが基本という点も、モノクロが原則の商業誌とは大きく異なります。そのためファイルサイズが肥大化しやすく、1話あたりのデータ管理にも注意が必要です。投稿サイトへのアップロード時の上限は1枚800px×1280px以下と定めているサービスもあり、制作時は大きいサイズで描いてから書き出し時にリサイズするワークフローが一般的です。これは使えそうです。
Webtoon向けの文字サイズについても、横読み商業誌とは異なる基準があります。商業誌は20Q(約5mm)が推奨フォントサイズですが、Webtoon(縦読み)では22〜24Qが推奨されます。スマートフォンの縦長画面で読まれることを想定しているため、文字を少し大きくしないと読みにくくなるのです。
| 種別 | 基本サイズ | 解像度 | カラー | フォントサイズ |
|---|---|---|---|---|
| 商業漫画(横読み) | B4(257×364mm) | 600dpi | モノクロ(原則) | 20Q |
| Webtoon(縦読み) | 800〜1600px幅×10,000〜20,000px | 350dpi | フルカラー | 22〜24Q |
縦読み漫画の制作を目指している場合、横読み漫画の原稿知識だけでは不十分です。Webtoonに特化した設定・演出手法を別途学ぶことで、投稿サービスの要件を満たした作品が作れるようになります。クリスタのWebtoon専用プリセットを活用するのが、最もスムーズな入り口となります。
Webtoonの原稿設定・1話あたりの分量の考え方について解説されています。
はじめてでも大丈夫!Webtoon&タテスク すぐわかるコラム(manga-lab)
原稿が完成したら、次は投稿・入稿用データへの書き出しです。ここでも設定ミスが起こりやすく、再提出や掲載トラブルの原因になります。痛いですね。
書き出し時の主なポイントは以下の通りです。出版社によって細かい指定が異なるため、必ず応募要項と照らし合わせながら設定してください。
クリスタを使っている場合、「ファイル→画像を統合して書き出し」から一括書き出しが可能です。書き出し設定ではトンボや基本枠などを出力するかの選択肢がありますが、投稿用データは基本的にすべてチェックを外してクリーンな状態で書き出します。出力サイズは100%が条件です。
また、一部の出版社ではCLIP STUDIO PAINTから直接投稿できる機能に対応しています。この場合は書き出しやZIP圧縮の手間が省けるため、対応しているかどうかを事前に確認しておくと作業効率が大きく変わります。
最終確認は必須です。書き出し後はファイルを開いて解像度・サイズ・表現色が正しいか、セリフが正しく含まれているか(または除外されているか)を目視で確認してから提出しましょう。送ってから気づくミスが一番時間のロスになります。
出版社への持ち込み・投稿用データの書き出し手順について実践的に解説されています。