

毎ページに擬音語を詰め込むほど、読者は作品から離れていく。
オノマトペとは、音や状態・様子を言葉で模倣した表現の総称で、日本語では「擬音語」「擬態語」「擬声語」の3種類に分けられます。語源はフランス語を経由した古代ギリシャ語の「オノマトポイーア(onomatopoiia)」で、もともと「言葉を作る」という意味を持っています。
擬音語は、実際に耳で聞こえる音を文字で表したものです。「雨がザーザー降る」「ドアがバタンと閉まる」など、現実世界に存在する音をそのまま言語化しています。漫画のコマに登場する大半の効果音は、この擬音語にあたります。
擬態語は、実際の音ではなく、物事の動きや様子・感情などを音声化したものです。「星がキラキラ光る」「心がウキウキする」といった表現は、耳では聞こえないけれど状況を鮮明に伝えます。つまり擬態語は「見えない音」を言葉にしているということですね。
擬声語は、人や動物の声を模した言葉です。「犬がワンワン吠える」「赤ちゃんがオギャーと泣く」がその代表例です。
| 種類 | 定義 | 漫画での例 |
|------|------|-----------|
| 擬音語 | 音・音響を模した言葉 | ドン、ガシャーン、ザーッ |
| 擬態語 | 動き・状態・感情を音声化した言葉 | キラキラ、しょんぼり、イラッ |
| 擬声語 | 人・動物の声を模した言葉 | ワンワン、ニャーン、オギャー |
漫画を描く上では、この3種類を混同しないことが基本です。なお、一般的に「擬音語」と「擬声語」はまとめて「擬音語」と呼ばれることも多く、大きくは「擬音語(擬声語)」と「擬態語」の2分類として理解しておけば十分です。2分類が基本です。
日本語のオノマトペは、研究者や資料によって数え方に差がありますが、小学館の『日本語オノマトペ辞典』には約4,500語が掲載されており、一般的には英語の4倍、中国語の3倍にのぼるとされています。別の試算では約12,000語という数字も登場するほど、日本語は世界でも突出してオノマトペが豊富な言語です。
これほど多い理由のひとつに、日本語の音の仕組みがあります。同じ「コロコロ」でも清音・濁音・半濁音を入れ替えることで「ゴロゴロ」「ポロポロ」といった別の言葉になり、それぞれ異なるニュアンスを持ちます。清音(か・さ・た行など)は小さい・軽い・鋭い・美しいものを表し、濁音(が・ざ・だ行など)は大きい・重い・荒々しいものを表す傾向があります。半濁音(ぱ・ぴ・ぷ行)は、清音と濁音の中間で弾む様子を表します。これはルールとして覚えておけばOKです。
さらに、繰り返しの有無(キラキラ vs キラッ)やひらがな・カタカナの選択でも印象が変わるため、組み合わせが爆発的に増えています。英語でも"buzz"や"boom"などのオノマトペはありますが、細かいニュアンスの差まで言語化できる日本語のオノマトペは、漫画表現の強力な武器になります。意外ですね。
漫画を描く人にとって、この豊かさは表現の幅の広さに直結します。同じ「怒り」を表す場面でも、「プンプン」「カッカッ」「ムカムカ」「ぷりぷり」では温度感や性格づけが変わります。どのオノマトペを選ぶかは、キャラクターの個性を決める大事な選択なのです。
参考:国立国語研究所「擬音語・擬態語にはどんな種類があるか」
https://www2.ninjal.ac.jp/Onomatope/column/nihongo_1.html
漫画でオノマトペを描くとき、多くの初心者が「何となく感覚で書けばいい」と思いがちです。しかし実は、清音・濁音・ひらがな・カタカナの選択には一定のルールがあり、それを知っているだけで表現の精度が大きく上がります。
まず、清音と濁音の使い分けです。「キラキラ」(清音)は純粋で繊細な輝きを表し、「ギラギラ」(濁音)は獲物を狙うような鋭い光や執念の強さを感じさせます。「コロコロ」(清音)は小さなものが転がる様子、「ゴロゴロ」(濁音)は重く大きなものが転がる様子です。このルールを押さえておくと、キャラクターの感情や場の雰囲気を音だけで調整できます。
次に、ひらがなとカタカナの違いです。ひらがなは柔らかく温かみのある印象、カタカナは硬くシャープな印象を与えます。
- 「星がきらきら光る」(ひらがな)→ 優しい・夢見るような雰囲気
- 「星がキラキラ光る」(カタカナ)→ はっきりした・鮮明な輝き
たとえば、ほのぼのした日常漫画ならひらがな中心のオノマトペが読者に自然に溶け込みやすく、バトル漫画ならカタカナの力強さが迫力を生みます。また、「ふんわり」を「フンワリ」とカタカナにすると、目には見えない香りや空気感の表現では逆に違和感が出るケースもあるため、素材の性質に合わせることが重要です。
繰り返し(畳語)の有無も表現を変えます。「キラキラ」は継続的に光っている状態、「キラッ」は一瞬だけ光るシーンに合います。このように場面の時間軸まで調整できるのが、オノマトペの奥深さです。
参考:オノマトペの種類と使い方(roaster編集部)
https://edit.roaster.co.jp/writing/6523/
実際に漫画のコマにオノマトペを入れるとき、どの言葉を選べばよいか迷う場面は多いでしょう。これは使えそうです。シーン別・感情別に代表的なオノマトペを整理しておくと、描くスピードも上がります。
🗡️ アクション・バトルシーン
| 状況 | 擬音語の例 |
|------|----------|
| 殴る・衝突 | ドン、バキッ、ズドン、メキャッ |
| 斬る | シュッ、ザシュ、スパーン |
| 爆発 | ドカーン、ボン、バーン |
| 足音(走る) | ダダダ、ドドドド、タタタ |
😊 感情・心理描写
| 感情 | 擬態語の例 |
|------|----------|
| 嬉しい・興奮 | ワクワク、ドキドキ、ウキウキ |
| 怒り | プンプン、カッカ、ムスッ |
| 落ち込み | しょんぼり、ガーン、がっくり |
| 恋愛・ときめき | キュン、ドキッ、ポーッ |
| 恐怖 | ゾクッ、ガタガタ、ひやっ |
🌿 日常・自然シーン
| 状況 | オノマトペの例 |
|------|-------------|
| 雨が降る | ザーザー、しとしと、ぱらぱら |
| 風が吹く | ヒュー、びゅーん、そよそよ |
| ドア開閉 | ガチャ、コトリ、バタン |
| 雰囲気・空気感 | シーン、ざわざわ、しんしん |
選ぶポイントは「そのキャラクターがどんな人物か」を基準にすることです。同じ「怒り」でも、熱血系キャラには「カッカッ」「ムキーッ」、内向的なキャラには「ムスッ」「ぷりぷり」が向いています。オノマトペはキャラクターの個性を補強する道具でもあります。
参考:漫画制作初心者向け・効果音の使い方(manga-school.jp)
https://manga-school.jp/sound-effect/
オノマトペは漫画に欠かせない表現ですが、多用しすぎると逆効果になることを知っている描き手は意外と少ないです。1コマに複数のオノマトペを詰め込みすぎると、画面全体が絵と文字の入り乱れに見えてしまい、読者の視線の流れが途切れます。特に感情的なクライマックスで、オノマトペが多すぎるとシーンの静けさや重さが消えてしまうことがあります。厳しいところですね。
あえてオノマトペを入れない技法も重要です。たとえば交通事故や衝撃的な展開のシーンで、あえてすべての音を消してコマを静かにすることで、読者に「当事者視点」の恐怖感や緊張感を生むことができます。これは漫画の上級テクニックですが、「音のない画面」がかえって記憶に残るという効果を生み出します。
また、独自のオノマトペを生み出した漫画家も存在します。『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)の「ドドドド」「ズキュウウウン」「メメタァ」、うすた京介先生の「キュピーン」「ハジャーン」などは、そのシーンを読んでいなくても名前だけで作品を想起させるほど強い印象を残しています。オリジナルのオノマトペは著作権フリーを宣言している例もあり(別の漫画家が使うことを許可しているケースも)、表現の個性として積極的に検討する価値があります。
初心者が今日から実践できる方針として、まずは「1コマに1つのオノマトペ」を意識することをおすすめします。それだけで画面がすっきりし、オノマトペが持つ本来の演出効果が際立ちます。次に、プロの漫画家の作品を読むときに「どのシーンにどのオノマトペを選んでいるか」「逆に入れていないコマはどこか」を意識して観察する習慣をつけると、自然と選択眼が磨かれていきます。オノマトペ選びは訓練で上達します。