
ドアップとは、キャラクターの目や口などの顔のパーツを画面いっぱいに大きく映す構図のことです。通常のアップ構図が顔全体を映すのに対し、ドアップはさらにカメラを寄せて一部分だけを強調します。
参考)ワンポイントレッスン「どアップのコマを描いてみよう!!」 -…
漫画では「ものすごいアップ」として、読者に強烈な印象を与える演出技法になります。目の場合は驚きや決意といった感情、口の場合はニヤリとした笑みや悔しさといった微妙な表情変化を伝えるのに適しています。
ドアップの最大の特徴は、一部分しか映っていないことで「全体はどうなっているんだろう?」という興味を惹く点です。この効果を利用して、漫画では次のページをめくらせるための最後の1コマ、いわゆる「メクリ」に頻繁に使われます。
目のドアップを描く際は、まず目を球体として意識することが重要です。立体感を持たせることで、どんな角度や表現にも応用が利くようになります。
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上まぶたの描き方で表情が大きく変わります。上まぶたを強めのカーブで描き、虹彩との間に隙間を開けるとパッチリ開いた驚きの目に、カーブを緩やかにして虹彩とくっつけると微笑んでいるような印象になります。上まぶたを逆カーブにすると笑っていない冷たい目になり、疑いや呆れといった感情を表現できます。
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瞳孔の大きさと位置も感情表現の鍵です。瞳孔を小さくして視線を定まらなくすると意思が薄れた目に、虹彩を小さくして病んだ表現にするなど、細かな調整で様々な感情を描き分けられます。さらに目元やおでこに斜線を加えて不穏なライティングを追加したり、ベタ影を使うことで怪しいシーンを演出できます。
女性キャラの目は全体的に丸をイメージし、大きくふっくらとした目でまつ毛を多めに描きます。男性キャラは黒目が小さめで横に長い切れ長の目、まつ毛も幅が細くなります。
参考になる目の構造解説
CLIP STUDIO - 目の特徴でキャラクターの個性を描き分ける
口元のドアップは、ニヤッと笑ったり悔しげに歪められたりといった微妙な感情変化を伝えるのに効果的です。表情は主に目と口に大きく出るため、この2つのパーツの組み合わせで無限に表情を作れます。
参考)表情の描き分けをしよう!
描き分けの基本は、目と口のパーツを別々に考えることです。笑いの目と笑いの口を組み合わせれば大笑い、怒りの目と迷いの口を組み合わせれば複雑な感情を表現できます。口角を片方だけ上げるとドヤ顔やいやらしい笑みになり、キャラクターの個性を引き出せます。
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重要なポイントは眉毛の長さと太さ、髪型、パーツの大きさや位置を変えないことです。これらが変わると全く別人になってしまうため、表情の描き分けではパーツの形状だけを調整します。
ドアップで口元を描く際は、下まぶたを少し上にゆがめたり、口角にベタ影を追加することでいやらしさやキャラクターの内面を表現できます。セリフを喋っているシーンでは、大きく開いた口を映すことで状況が伝わりやすくなります。
参考)https://www.palmie.jp/lessons/283
ドアップは顔の角度によって演出の印象が大きく変わります。正面を向いたドアップは最も訴求力があり、キャラクターの感情をまっすぐ伝えたいときに適しています。読者に対して直接語りかけるような効果があり、決めセリフや告白シーンで威力を発揮します。
斜めを向いているドアップは片方の目を大きく映す特徴があり、複雑な感情を伝えるのに適しています。他のキャラや物事に対する反応を表現する構図として使われます。
アオリ構図のドアップは下から見上げる角度で、威圧感のあるキャラクターや見下すような視線を表現するときに効果的です。強さや圧力を見せられるため、敵を追い詰めるシーンに最適です。フカン構図のドアップは上から見下ろす角度で、対象を小さく見せる効果のほか、上目遣いや鋭く睨むような視線を強調できます。弱さや追い詰められた状況を表現するのに使われます。
横顔のドアップは正面や斜めと比べると表情は伝わりにくいですが、顔のシルエットやキャラクターの雰囲気を印象的に見せることができます。
ドアップショットは読者の興味をグッと強く引くため、戦略的な配置が重要です。最も効果的な使い方は、ページの最後の1コマ「メクリ」として配置する方法です。少年の目のドアップでページが終わると「何を見て驚いているんだろう?」と読者が引き込まれ、次のページをめくりたくなります。
コマ割りにメリハリをつけるには、ロング・ミドル・アップの組み合わせを意識します。掴みで大きく目を引く絵を描いて興味を持たせ、引きで状況を分かりやすく描写し、前フリで興味を膨らませるように少し大きく描き、オチで印象的で大きな絵を描くという流れです。
参考)コマ割りやデザインにメリハリをもたせる。 - 箱庭的ノスタル…
ドアップのコマは描く要素が少ない分、絵が小さくまとまりがちです。余白を恐れず、キャラを大きく画面に配置することで迫力が生まれます。また、枠なしのコマにドアップを配置し、あえて枠線をはみ出させるとキャラの存在感が増します。
中央のコマにドアップを置くと、そのキャラクターに高い注目効果が生まれます。カットイン風のコマ効果と組み合わせることで、さらに演出効果が高まります。
漫画構図の実践的な解説
アミューズメントメディア総合学院 - マンガ構図の考え方
ドアップと構図を組み合わせることで、キャラクターの内面まで表現できます。例えば、キャラクターの目のドアップと風景のドアップを交互にカットバックさせると、風景がキャラの内面を表しているように見えます。
参考)内面を感じさせる漫画の描き方【構図href="https://note.com/hagami_yukiko/n/nf9fdbd5c2dd8" target="_blank">https://note.com/hagami_yukiko/n/nf9fdbd5c2dd8amp;カットバック】を説明しま…
構図に円や対称性を持たせることで関係性を生み出せます。同じ構図で余白と絵の部分を反転させると関係性が生じ、左右対称の構図では比較される感じになり存在感が増します。円の構図を拡大しながら反転させると、関係性が生じつつ真ん中が強調されます。
手や足のドアップも効果的です。崖にしがみつく「手」のドアップを描くだけでも、落ちそうな危機感や必死さを伝えることができます。ドアップは状況の説明よりも感情の強調に適した手法なんです。
超クローズアップでキャラの感情を強調し、読者の期待値を上げる技法もあります。ミディアムクローズアップで表情と立場を一瞬で伝え、その後に超クローズアップすることで感情をさらに強調できます。
参考)カメラワークについて(ウェブトゥーン編)|フーモアコミックス…
大胆に画面を使い、キャラクターと目線の高さを合わせたドアップは臨場感を演出します。寝そべっているキャラクターと目線の高さを合わせ、髪を画面手前に広がるように描くことで、地面の表現と視線誘導を同時に行えます。
内面表現の具体的な手法解説
note - 内面を感じさせる漫画の描き方【構図&カットバック】