

国宝の城を「全部そっくり同じ白い天守」だと思って描いていると、歴史好き読者に一瞬でバレます。
漫画を描くとき、城の背景として真っ先に参考にしたいのが「国宝5城」です。
現在、天守が国宝に指定されている城は日本全国でわずか5城しかありません。松本城(長野県)・犬山城(愛知県)・彦根城(滋賀県)・姫路城(兵庫県)・松江城(島根県)の5つです。
江戸時代初期には全国におよそ3,000もの城があったとされています。東京ドームが約1.24ヘクタールなので、かなりの密度です。その膨大な数から厳選された5城だけが国宝という称号を持ちます。
国宝に指定されるには「古さ・美しさ・歴史的価値が特に優れている」ことが条件です。ただし、その基準は明文化されているわけではなく、文化財保護法に基づく専門家による審査を経て決定されます。
つまり「現存12天守≠すべて国宝」ということですね。
残る7城(弘前城・丸岡城・備中松山城・丸亀城・松山城・宇和島城・高知城)は「重要文化財」に指定されています。国宝と重要文化財は別物です。これが条件です。
漫画の舞台に使う城を選ぶとき、「国宝城 = 日本最高峰の保存状態・美観・歴史的価値」と覚えておけば、背景の説得力が上がります。
| 城名 | 所在地 | 指定区分 | 指定年 |
|---|---|---|---|
| 姫路城 | 兵庫県姫路市 | 国宝・世界文化遺産 | 昭和26年(1951) |
| 松本城 | 長野県松本市 | 国宝 | 昭和27年(1952) |
| 犬山城 | 愛知県犬山市 | 国宝 | 昭和27年(1952) |
| 彦根城 | 滋賀県彦根市 | 国宝 | 昭和27年(1952) |
| 松江城 | 島根県松江市 | 国宝 | 平成27年(2015) |
参考:国宝5城の指定年・所在地など詳細情報はこちら
漫画家が国宝5城を背景に描くとき、最大の失敗は「どれも同じ形に描いてしまう」ことです。
国宝5城はそれぞれ外観が大きく異なります。大別すると「白い城」と「黒い城」の2種類があります。これが基本です。
まず白い城の代表は姫路城です。外壁は白漆喰(しっくい)で仕上げられており、「白鷺城」とも呼ばれています。5層の大天守に東・西・乾(いぬい)の3つの小天守が渡り廊下(渡櫓)でつながる「連立式天守」という構造で、現存12天守の中でも最大規模を誇ります。天守の高さは約46.4メートルで、大阪城のコンクリート復元天守(約58メートル)より低いにもかかわらず、その美観は世界遺産にも登録されています。圧倒的な美しさですね。
一方、黒い城の代表が松本城と松江城です。外壁の多くが黒色の下見板張りで仕上げられており、夜空に映える漆黒のシルエットが特徴です。松本城は戦国時代の実戦的な構造を残しており、「烏城(からすじょう)」とも呼ばれています。石落としや鉄砲狭間が多数設けられており、攻城戦を徹底的に想定した設計です。
彦根城は白と黒が混在するデザインで、国宝5城の中で最も「破風(はふ)」の種類が多い天守です。唐破風・千鳥破風・切妻破風など5種類もの破風が重なり合い、「オシャレ天守」とも称されます。
犬山城は木曽川沿いの小高い丘に建つコンパクトな望楼型天守で、全国の模擬天守のデザイン参考にされるほど普遍的な「ザ・天守閣」の形をしています。国宝5城の中では現存最古の木造天守とされており、戦国時代そのものの空気を持った城です。
| 城名 | 外観の色 | 天守の形式 | 漫画での活用場面 |
|---|---|---|---|
| 姫路城 | 白(白漆喰) | 連立式・層塔型 | 豪華絢爛な本拠城・大名の居城 |
| 松本城 | 黒(下見板張り) | 連結複合式・望楼型 | 戦国武将の堅固な城・籠城シーン |
| 犬山城 | 白黒混在 | 独立式・望楼型 | 川沿いの要塞・戦国時代の城 |
| 彦根城 | 白黒混在 | 複合式・層塔型 | 江戸時代の大名屋敷・政治の城 |
| 松江城 | 黒(下見板張り) | 独立式・望楼型 | 重厚な要塞・湖畔の城 |
参考:国宝5城それぞれの天守の見どころ・構造の詳細はこちら
漫画の背景を描く際、屋根の形を間違えると時代考証のズレにつながります。
天守の建築様式は大きく「望楼型(ぼうろうがた)」と「層塔型(そうとうがた)」の2種類に分類されます。
望楼型は、1〜2階建ての大きな入母屋造りの建物の上に「望楼(物見台)」をのせた形式です。屋根と上部の望楼がはっきりと見て取れる、より古風で複雑な外観が特徴です。織田信長の安土城(1576年築)から始まった初期の天守に多く見られます。犬山城・松江城・松本城(一部)が望楼型に分類されます。
一方、層塔型は1階から最上階まで同じ構造の建物を規則的に小さくしながら積み重ねる形式で、より均整の取れたスッキリしたシルエットになります。彦根城・姫路城が層塔型です。
これが描き分けのポイントになります。
戦国時代を舞台にした漫画であれば「望楼型」の不規則に重なる屋根を選ぶと時代感が出ます。江戸時代の安定した政治の世を舞台にするなら「層塔型」の整然とした印象の天守が似合います。
また、天守の配置による分類として「独立式(天守が単独で建つ)」「複合式(天守に付属する小屋がくっつく)」「連結式(天守と別棟をつないで連絡する)」「連立式(複数の天守がつながる)」の4種類があります。姫路城の連立式天守は圧倒的な存在感があり、漫画で「最強の城」を表現するには最適なシルエットです。
参考:望楼型と層塔型の違いを図解で確認できます
ここが最大の落とし穴です。
「日本三大名城」として名高い大阪城・名古屋城・熊本城。有名どころのこれらの城はなぜ国宝5城に含まれていないのでしょうか?
答えはシンプルで、現在見られる天守が「江戸時代以前の本物の天守ではない」からです。
名古屋城の天守は1945年(昭和20年)の空襲で焼失しました。現在の天守は1959年に鉄筋コンクリートで復元されたものです。実は、名古屋城は1929年(昭和4年)の旧国宝保存法において「城郭の国宝第一号」として指定されていた城でした。その後、戦争で失われた結果、現在は「特別史跡」として指定されています。
大阪城の現在の天守も1931年に再建されたコンクリート製のもので、豊臣時代・徳川時代いずれの天守とも異なる「3代目」です。
熊本城は2016年の熊本地震で天守が大規模損壊し、その後の修復作業を経ていますが、もともとの天守は明治時代の1877年に西南戦争の際に焼失しており、現在の天守も鉄筋コンクリート製の復元天守です。
つまり「有名な城 ≠ 国宝の城」ということですね。
漫画を描く際に「本物の江戸時代以前の天守の雰囲気」を参考にしたいなら、必ず国宝5城か重要文化財7城の現存天守を資料にする必要があります。コンクリート復元天守はシルエットが本物と微妙に異なる場合があり、細部のディテールが現代的になっているケースもあります。これは使えそうです。
これは漫画のネタになるくらい劇的なエピソードです。
現在5城目の国宝・松江城(島根県)は、2015年に63年ぶりに国宝に「再指定」されました。もともと1935年(昭和10年)の旧国宝保存法で国宝に指定されていましたが、戦後の1950年(昭和25年)に「文化財保護法」が制定され、規定が厳格化された際に「重要文化財」に格下げされた経緯があります。
その最大の理由は、天守の建築年を確定できる史料が見つからなかったことです。
松江市は何十年もの間、国へ国宝指定の陳情を繰り返しました。1990年代には13万人近くの市民署名も提出しています。しかしどうしても「決め手」が見つからず、状況が動かない年月が続いていました。
状況が変わったのは2012年5月のことです。天守のすぐそばにある松江神社で「慶長十六年」と記された2枚の祈祷札が発見されました。慶長16年とは西暦1611年にあたります。
この祈祷札と天守の柱を1本1本照合する調査が行われ、釘穴や白い跡がピタリと合致する柱が特定されました。これで天守の完成年が1611年と確定し、さらに「2階分の通し柱」や「包板(つつみいた)の技法」といった特徴的な柱構造が建築技術の優れた事例であると証明され、2015年7月に国宝再指定が実現したのです。
この一連のプロセスは63年越しの悲願でした。官民一体でお城を守った情熱の結果です。
漫画に歴史的建築物を描くとき、その城が持つ「背景にある人間ドラマ」を知っているかどうかで、作品への熱量が変わります。松江城はまさにその格好の例です。
参考:松江城が国宝になるまでの詳細な経緯はこちら
【島根観光ナビ】知っていると倍楽しい!国宝松江城の魅力を徹底ガイド(祈祷札発見から国宝指定までの流れを解説)
実は国宝5城はそれぞれ「攻撃・防御の仕掛け」が異なります。
漫画で城攻めや籠城シーンを描くとき、この軍事ギミックを知っているかどうかで迫力が段違いになります。
松本城の天守は、鉄砲による攻城戦を強く意識した設計です。「石落とし(いしおとし)」が多数設けられており、城壁をよじ登ってきた敵に対して上から石や熱湯を落とせる構造になっています。また「狭間(さま)」と呼ばれる弓矢・鉄砲用の小窓も多く、まさに実戦仕様です。
松江城はさらに徹底した戦闘特化型です。外壁のほとんどを黒い下見板張りで覆い、燃えにくい桐材を階段に使用しています。城内に侵入した敵に天守内部から攻撃するための「石打棚(いしうちたな)」や「武者窓(むしゃまど)」が設けられており、無数の鉄砲狭間がその異様な雰囲気を強調しています。
彦根城には「隠し狭間(かくしざま)」が数多く仕掛けられています。外観からは見えない壁の内側に狭間を作り、内部から攻撃できる設計です。外見は美しく洗練されているのに、中身は恐ろしい戦闘要塞です。意外ですね。
姫路城は「迷路構造」が有名です。城内の通路が複雑に入り組んでいて、敵が侵入しても天守にたどり着けないような設計になっています。門から天守へ向かうルートが螺旋状になっており、内部を知らない敵は確実に迷子になります。
漫画で城の攻防シーンを描くとき、これらのギミックを1つ取り込むだけで「この作者は城を知っている」と読者に伝わります。「石落とし」の描写が1コマあるだけで、読者は物語の世界観に引き込まれます。
参考:天守の軍事構造・各城の見どころをより詳しく確認できます
【国宝五城公式サイト】国宝五城 歴史観光・見どころ紹介(姫路城・彦根城・犬山城・松本城・松江城の詳細情報)