
マンガの世界観を構築する際、最初に重要なのはコンセプトの決定です。人気漫画家の大久保篤氏によれば、世界観は「連想ゲーム」のように作り出すことができます。一つか二つの核となるコンセプトから始め、そこから連想を広げていくことで、独自の世界を構築していくのです。
例えば、「魔法」というコンセプトから始めるなら、次のように連想を広げていきます:
このように一つの要素から枝分かれさせていくことで、世界の骨格が徐々に形作られていきます。大切なのは、「誰もやらなかったこと」ではなく「誰も気づかなかったこと」を選ぶという視点です。既存の概念に新しい切り口を加えることで、オリジナリティのある世界観が生まれます。
連想を広げる際には、思いついたアイデアをマインドマップやノートに書き出していくと整理しやすくなります。最初は量を重視し、後から整合性を考えながら取捨選択していくとよいでしょう。
世界観を緻密に構築するためには、その世界に関する様々な側面を考える必要があります。「世界観構築における100の質問」に答えていくことで、世界の細部まで作り込むことができます。
重要な質問カテゴリーとしては以下のようなものがあります:
これらの質問に答えていくことで、ぼんやりとしていた世界のイメージが鮮明になり、読者に説得力のある世界を提示することができます。すべての質問に答える必要はありませんが、物語に関わる重要な部分については詳細に設定しておくことをおすすめします。
魅力的な世界観を作るうえで忘れてはならないのが、キャラクターとの関係性です。世界観とキャラクターは互いに影響し合い、物語を豊かにする要素となります。
キャラクターは世界観の中で生まれ、育ち、生きている存在です。その世界の文化や価値観、歴史などがキャラクターの性格や行動様式、考え方に影響を与えます。逆に、キャラクターの行動や選択が世界の歴史や状況を変えていくこともあります。
世界観とキャラクターを結びつけるポイント:
例えば、魔法が存在する世界で魔法が使えない主人公を設定すれば、そこから生まれる差別や苦悩、それを乗り越えようとする姿勢など、キャラクターと世界観が絡み合った魅力的なストーリーが展開できます。
マンガの世界観を説得力あるものにするためには、その世界の社会構造、文化的背景、歴史的経緯などを丁寧に作り込むことが重要です。これらの要素が有機的に結びついていることで、読者は「この世界は本当に存在しているかのような」錯覚を覚えます。
社会構造の設計
世界の社会構造を考える際には、以下の点を検討しましょう:
文化的要素の創造
文化は世界に色彩と深みを与えます:
歴史的背景の構築
歴史は現在の世界状況を説明する重要な要素です:
これらの要素を考える際には、「なぜそうなったのか」という因果関係を意識することが大切です。例えば、ある国が軍事国家になっているなら、その背景には過去の侵略や脅威があったはずです。このような理由付けがあることで、読者は「そうなるのは当然だ」と納得し、世界観に説得力が生まれます。
また、現実世界の歴史や文化を参考にすることも有効です。完全なオリジナルを作ろうとするよりも、実在の文化や歴史の要素を取り入れ、それをアレンジすることで、より深みのある世界観を構築できます。
世界観を構築する際に見落としがちなのが「整合性」です。いくら魅力的な設定を考えても、矛盾や不自然さがあると読者の没入感が損なわれてしまいます。そこで役立つのが「世界観テスト」という手法です。
世界観テストとは、自分が作った世界の中で実際に物語を展開させてみて、設定に矛盾や不備がないかを確認する方法です。以下のステップで実施してみましょう:
1. 日常生活シミュレーション
その世界の一般市民が朝起きてから夜寝るまでの一日を想像してみます。
2. 極限状況テスト
その世界で災害や紛争などの極限状況が発生した場合、社会はどう反応するかを考えます。
3. 歴史的変遷の検証
現在の世界状況に至るまでの歴史的経緯に矛盾がないか確認します。
4. 「なぜ」の連鎖
設定の一つひとつに「なぜ」と問いかけ、その理由を明確にします。
このテストを通じて見つかった矛盾や不自然さは、設定を調整することで解決していきます。すべての細部まで完璧に作り込む必要はありませんが、物語の核となる部分については整合性を持たせることが重要です。
世界観テストは一人で行うこともできますが、信頼できる友人や編集者に協力してもらうとより効果的です。外部の視点からは、自分では気づかなかった矛盾点が見えてくることがあります。
魅力的な世界観を構築する効果的な方法の一つが、複数のテーマを組み合わせることです。これにより、ありきたりな設定に新しい息吹を吹き込み、独自性のある世界を創造することができます。
テーマ組み合わせの基本
基本的なテーマ(ジャンル)に、もう一つのテーマを掛け合わせることで、新しい世界観が生まれます。例えば:
このように、一見関連性のない要素を組み合わせることで、読者の興味を引く独自の世界観が生まれます。
組み合わせの際のポイント
組み合わせの具体例
「ファンタジー × 料理」の世界観を例に考えてみましょう:
このように、テーマの組み合わせから連想を広げていくことで、独自性のある世界観を構築することができます。既存の作品にはない新しい切り口を見つけ、読者を驚かせる世界を創造しましょう。
世界観の組み合わせは、マンガ市場が飽和状態にある現代において、作品を差別化する重要な要素となります。読者の「こんな世界観見たことない!」という驚きと興味を引き出すことができれば、作品の魅力は大きく高まるでしょう。