
バンド・デシネ(bande dessinée、略称B.D.)は、フランスやベルギーを中心とするフランス語圏で発展した漫画のことを指します。「描かれた帯」という意味を持つこの言葉は、英語のcomic stripに相当する表現なんです。
参考)バンド・デシネ - Wikipedia
フランスではバンド・デシネを「9番目の芸術」と呼び、芸術としての地位が確立されています。アメリカン・コミックス、日本の漫画と並んで世界三大コミック産業のひとつとされているんですね。
参考)フランス語圏のマンガ「バンド・デシネ」沼にはまった研究者おす…
日本の漫画との大きな違いは、まず色使いにあります。日本の漫画は白黒を基調とし、濃淡や線の太さで表現力を引き出しますが、バンド・デシネはカラーが一般的で、色彩豊かな表現が特徴です。緻密な描写やリアリティを重視し、背景やキャラクターにも細かなディテールが描かれています。
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ストーリー面でも違いがあります。日本の漫画の多くは週刊誌などに連載しながら単行本として刊行されますが、バンド・デシネは漫画を連載する週刊漫画誌という文化がありません。そのため、小説と同じようにストーリーが完成した段階で出版されるんです。
参考)https://paris-rama.com/paris_history_culture/020.htm
バンド・デシネ - Wikipedia
バンド・デシネの歴史と定義について詳細に解説されています。
バンド・デシネを語る上で欠かせない作家が、本名ジャン・ジローで知られるメビウスです。彼は「フレンチコミック界の至高」とも呼ばれ、2012年の死没時には世界中のアーティストから追悼メッセージが寄せられました。
参考)『AKIRA』にも影響を与えたメビウスのコミック、新装版で刊…
メビウスの影響力は日本にも及んでいます。1980年代以降の日本漫画の作画に革命をもたらした大友克洋は、メビウスの画風に影響を受けていることを公言しています。『AKIRA』の大友克洋をはじめ、寺田克也、荒木飛呂彦など、多くの日本の漫画家・アーティストがメビウスから影響を受けたことで知られているんです。
メビウスが作画、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーが物語を担当したコミック『アンカル』は、1980年代の作品でありながら、その圧倒的描写と波乱に満ちた物語で世代を超えた多くのファンを魅了してきました。
フランスでは意外なことに、一般的なバンド・デシネ読者でメビウスの作品を読んでいる人は少ないとされています。本名の「ジャン・ジロー」で描いていた『ブルーベリー』というウェスタンのストーリーのほうが一般的には有名なんですね。
参考)こんなマンガもあるんだ!「バンド・デシネ」が見せる世界
『AKIRA』にも影響を与えたメビウスのコミック、新装版で刊行!バンド・デシネ『アンカル』 - SPICE
メビウスの代表作『アンカル』の詳細な制作過程と世界設定が紹介されています。
ドレスコーズは、毛皮のマリーズのボーカルだった志磨遼平を中心に2012年に結成された日本のロックバンドです。2013年11月6日にリリースされた2ndアルバム『バンド・デシネ』は、フランス語圏の漫画と同じタイトルを持つ作品なんです。
参考)https://columbia.jp/thedresscodes/
アルバムには全12曲が収録されており、「ゴッホ」「どろぼう」「Zombie」「ハーベスト」「トートロジー」などの楽曲が含まれています。初回生産限定盤にはライブDVDが付属し、日本青年館での公演映像を収録しているんです。
表題曲「バンド・デシネ」の歌詞には「これが人生、愛と栄光のバンド・デシネ!」というフレーズがあり、人生そのものを芸術作品に見立てた表現が印象的です。「この胸に太陽を、くちびるにパロールを!」「弾倉にルージュを、引き金にバラードを!」といった詩的な言葉が並びます。
参考)ドレスコーズ バンド・デシネ 歌詞 - 歌ネット
志磨遼平は雑談の中で「ゴッホ」の歌詞に繋がるアイデアを得たと語っており、芸術家ゴッホへのオマージュが込められています。歌詞の中には「C28のM73 Y18でKが14」というカラーパーセントの数値が登場し、色の認識についての哲学的な問いかけも含まれているんです。
参考)ドレスコーズ『バンド・デシネ』インタビュー
ドレスコーズ2nd アルバム『バンド・デシネ』2013年11月6日発売 - Columbia Music
アルバムの収録曲リストと発売形態の公式情報が掲載されています。
バンド・デシネの制作方法は、日本の漫画とは大きく異なる特徴があります。最も顕著な違いは、作家とイラストレーターが別々の役割を担う分業制です。作家はストーリーを考えてシナリオを書き、イラストレーターがそれに基づいて絵を描くことが一般的なんです。
この分業制によって、ストーリーと絵がそれぞれ専門家によって作成されるため、高品質な作品が生み出されることが多いとされています。さらにバンド・デシネではカラーが一般的なため、色彩を担当するカラーリストが加わることもあるんです。
日本の漫画では原作者がコマ割りや構図を決め、下書きから線画、トーン、効果線まで追加して完成させますが、バンド・デシネはパネルのレイアウトが一定の構成を基本としています。
興味深いのは「バンドデシネは見る。漫画は読む。」という表現です。バンド・デシネは1コマ1コマが絵画作品として成立しそうなほど、フルカラーで手描きによる緻密な描写が特徴となっています。
参考)バンドデシネは見る。漫画は読む。「読む」漫画をつくる基本。|…
フランスで流行っているバンド・デシネって何!?漫画との違い - KABUKI CREATIVES
漫画とバンド・デシネの制作方法の違いを、スタイル・ストーリー・制作方法の3つの観点から詳しく解説しています。
バンド・デシネの技法を日本の漫画制作に応用することで、表現の幅を広げることができます。まず注目すべきは、色彩表現の豊かさです。バンド・デシネはカラーが一般的で、色彩豊かな表現が特徴となっています。デジタルツールの普及により、日本の漫画家もカラー作品を制作しやすくなった今、バンド・デシネの色使いは大いに参考になるでしょう。
ストーリー構成においても学ぶべき点があります。バンド・デシネは社会問題、歴史、文化を背景にした物語が多く、読者に考えさせる要素が豊富です。キャラクターの心情描写や状況設定が丁寧に描かれることが多く、物語の進行がゆっくりとしているんです。
制作環境の違いも興味深い点です。フランスのバンド・デシネ作家は約1,500人、昨年1年間の刊行点数は1,700点といわれていますが、著作権で生活している人はそのうちの一部だけとされています。多くの作家はフリーランスでイラストの仕事をしたり、アニメーションを描いたり、学校で教えたりしながら創作活動を続けているんです。
雑誌連載という形式に縛られた日本の漫画に比べて、バンド・デシネは制作に対する自由度が高く、コマやストーリーの構成は作家に一任されます。そのため、まるで絵画のように作家ごとの自由な作風が生まれるんです。
アングレーム国際漫画祭は、ヨーロッパ最大級のバンド・デシネのイベントで、1974年よりフランスのアングレーム市が開催しています。「漫画界におけるカンヌ」とも言われ、毎年1月末に開催され、3日間から4日間の開催期間中に20万人以上を動員するんです。
参考)アングレーム国際漫画祭 - Wikipedia
アングレーム国際漫画祭 - Wikipedia
バンド・デシネの世界最大級のイベントについて、規模や表彰制度の詳細が掲載されています。
バンド・デシネを楽しむためには、日本の漫画とは異なる鑑賞方法を理解する必要があります。日本の漫画が読者をキャラクターに感情移入しやすいように描かれるのに対し、バンド・デシネは大人の目線で客観的にストーリーを描く作品が多いんです。
フランスでは物心付く前からバンド・デシネが読まれています。親は子どもに文字を覚えさせるために、絵本と『タンタン』や『スマーフ』などの子ども向けのバンド・デシネを読ませるんです。絵と文字があるバンド・デシネは便利な媒体で、ストーリーもアクティブなので、絵本では表現できない世界観を子どもたちに提供できるとされています。
文化庁メディア芸術祭の第16回マンガ部門では、初めて海外作品として、ブノワ・ペータースとフランソワ・スクイテンによる『闇の国々』が大賞を受賞しました。この作品は架空の都市群を舞台にした作品で、フランス・ベルギーではすでに24冊も刊行されている伝統的なシリーズなんです。
『闇の国々』の特徴として、主人公たちが日本のマンガと違っておじさんやお年寄りしかいない点が挙げられます。年寄りだって冒険もできますし、自分の世界を作っていくこともできるという、大人向けの視点が魅力となっているんです。
フランソワ・スクイテンの絵は、日本の漫画家浦沢直樹が「とにかく凄い!」と驚嘆したほどの完成度を誇ります。作品はカラーではなくモノトーンですが、綿密に線が引かれていて、美しく世界観が描かれているんです。
こんなマンガもあるんだ!「バンド・デシネ」が見せる世界 - CINRA
バンド・デシネ専門誌『Euromanga』編集長へのインタビューで、バンド・デシネの魅力と日本との関係が詳しく解説されています。
ドレスコーズのアルバム『バンド・デシネ』には、フランス語圏の漫画文化と音楽が融合した独特の世界観があります。志磨遼平がこのタイトルを選んだ背景には、芸術としてのバンド・デシネへの敬意と、音楽もまた「9番目の芸術」に匹敵する表現形式であるという思いが込められていると考えられます。
歌詞には「恋と労働のシンフォニーをゆけ」「運命に火をつけて吸え!」といったフレーズがあり、人生そのものを芸術作品として捉える姿勢が表れています。「ぼくらはいつも coda(終わり)」という言葉は、音楽の終結部を意味すると同時に、人生の終わりを意識した表現となっているんです。
アルバムに収録された「ゴッホ」という楽曲は、バンド・デシネの巨匠メビウスと同じように、美術史に名を残す芸術家へのオマージュとなっています。志磨遼平は歌詞をほとんど推敲しなかったと語っており、ある種の連想ゲームのような感覚で言葉を紡いでいったそうです。
「お金じゃないとか言うな、お金って愛の数値化だ」という挑発的な歌詞の後に、カラーパーセント「C28のM73 Y18でKが14」という具体的な数値が続く構成は、抽象的な概念を具体的な数値で表現するという実験的な試みなんです。この色は微妙なエンジ色や小豆色になるとされています。
バンド・デシネが芸術か娯楽かという議論があるように、音楽もまた同じ問いを抱えています。ドレスコーズのアルバム『バンド・デシネ』は、そうした境界線を意識的に曖昧にし、芸術と娯楽の両方を内包する作品として位置づけられるでしょう。
ドレスコーズ『バンド・デシネ』インタビュー - M FOUND
志磨遼平自身が歌詞の制作過程や、カラーパーセントの意図について詳しく語っているインタビュー記事です。