
ロングショット(遠景)は、キャラクターの全身と周囲の環境を広く見せる構図のことです。この技法では画面の大部分を背景が占め、人物は小さく描かれるため、登場人物がどこにいるのか、どんな空間にいるのかが一目で分かります。
参考)https://www.tttombo.com/tombo2-manga-seisakuyougo-ra-ronngsyotto.html
漫画制作の現場では「1ページに1つは遠景コマ(ロングショット)を入れる」という基本ルールがあります。これは読者が「今どんな状況なのか」を把握しやすくするための配慮なんです。キャラクターの顔だけが続く「顔漫画」では、主人公たちがどういう状況で会話をしているのかが伝わりにくく、読者の感情移入を妨げてしまいます。
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プロの漫画家である佐藤秀峰先生も、場所の説明にロングショットを活用しています。たとえば商店街の夜景をロングショットで描き、その中を歩く2人のキャラクターを配置することで、物語の舞台を明確に示す手法です。
参考)【後編】佐藤秀峰先生に聞く漫画の描き方「デジタル作画で僕が気…
場所の説明だけでなく、キャラクターの登場シーンにも効果的です。ロングショットで登場させることで、そのキャラクターが物語において重要な人物であるという印象を読者に与えることができます。
ロングショットは感情表現においても強力な演出効果を持っています。特に顕著なのが、キャラクターの孤独感や疎外感を視覚的に表現できる点です。画面の中で人物が小さく描かれ、周囲の空間が広く強調されることで、キャラクターの小ささと環境の広がりが対比され、孤独な状況が伝わります。
参考)カメラショット徹底解説|映画制作に欠かせないショット6選 href="https://www.satsulog.com/%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%E5%BE%B9%E5%BA%95%E8%A7%A3%E8%AA%AC%EF%BD%9C%E6%98%A0%E7%94%BB%E5%88%B6%E4%BD%9C%E3%81%AB%E6%AC%A0%E3%81%8B%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84/" target="_blank">https://www.satsulog.com/%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%88%E5%BE%B9%E5%BA%95%E8%A7%A3%E8%AA%AC%EF%BD%9C%E6%98%A0%E7%94%BB%E5%88%B6%E4%BD%9C%E3%81%AB%E6%AC%A0%E3%81%8B%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84/amp;…
実際の作品例として、Webtoon作品『見返りは求めていなかった』では、ロングショットを巧みに使った演出が見られます。主人公が薬を飲ませようとする妹の手を振り離す瞬間はクローズアップで描かれ、スプーンが落ちるシーンはロングショットで表現されています。この切り替えによって、読者に何が起きたのかを見せつつ、メリハリのある流れが生まれているんです。
参考)Webtoon演出の基本の『キ』を解説!演出力を上げるトレー…
さらに注目すべきは、ロングショットの利用によりキャラクターの表情が隠され、緊張感が一層高まる点です。静かな空間に広がる「カラン」というスプーンが落ちる音が実際に聞こえるような演出は、読者を物語の世界に引き込み、臨場感を感じさせます。
参考)Webtoon演出の基本の『キ』を解説!演出力を上げるトレー…
映画制作においても同様の効果が認められており、登場人物の位置や動きの広がりを見せることで、開放感や圧倒的な状況を強調できます。ロングショットで広大な風景の中を歩くキャラクターを描くことで、その孤独感や無力感を視覚的に示すことができるのです。
参考)漫画の構図5つの基本パターンと演出のテクニック|ユートピア🌎…
ロングショットは単独で使うよりも、他のショットサイズと組み合わせることで真価を発揮します。クローズアップ、ミドルショット、ロングショットを適切に切り替えることで、読者の興味を惹く作品が生まれます。
『見返りは求めていなかった』2話の建物に入るシーンでは、効果的な組み合わせが見られます。最初はロングショットで場所を見せ、ミドルショット、そしてクローズアップとどんどんショットサイズを変えていくことで、まるで読者が建物の中に入るように感じられる演出になっています。最後の2コマでは、まずロングショットでキャラクターがどういう状況に置かれているのかを説明した後、クローズアップと大きいコマを使い重要人物であることを伝えながら、キャラクターの感情もしっかり見せています。
バストショットやロングのコマでは周囲の背景を描き、物語の舞台やキャラの位置関係を説明できます。一方でクローズアップを使えば、キャラクターの感情の微細な変化を捉えることができます。
参考)映画のカメラワークが感情に与える影響
ロングショットだけが続くと、読者は遠くから客観的に状況を見てしまうため、誰に感情移入して読み進めて良いのかわからず、興味を失ってしまいます。またロングショットだけでは迫力や緊張感を感じさせることが難しいため、読者が飽きてしまう可能性が高くなります。
カメラアングル(角度)の組み合わせも重要です。ローアングルで撮影されたキャラクターは威圧感や力強さを、ハイアングルからの視点は弱さや脆さを印象づけます。こうした構図や距離の選択が、視聴体験に与える影響は極めて大きいのです。
参考)読者を飽きさせない演出テクニック カメラワーク入門②「カメラ…
場面転換にロングショットを活用することで、読者に分かりやすく次のシーンへ移行できます。風景や情景描写を挟んで場面を変えるケースでは、空や建物、ロングショットを使ってから、次の人物のアップやセリフにつなげる手法が一般的です。
参考)マンガの場面転換のしかたを分析する|みじんことオーマ
コマ割りテクニックとしては、上段を横割りの大ゴマにし、下段には縦割りと横割りを入れる方法があります。横割りから縦割り、縦割りから横割りに変化させることで、時間の経過や場所の変化を表現できます。余談ですが「4ページに1回場面転換しないと読者は飽きる」とも言われています。
参考)【連載】第七回 マンガの隠し味!?コマ割りに秘められた創作術…
ミステリーなど登場人物が多くてそれぞれ動いている作品では、情景を出すことでその地域がどんな土地なのかを伝えることもできます。景色バックの上にセリフを置くことで、文字が詰まりすぎずに済むという実用的な効果もあります。
キャラクターが移動したときには、別の背景のロングカットをポンと入れてあげることで、「あの場所に移動したんだな」というのがスッと入ってきます。これは漫画だけでなく、映画やドラマでも同じ手法が使われています。おとぎ話でも「むかしむかしあるところに」という場所の説明から入るように、しっかり場所を説明してあげることが大切なんです。youtube
夜の道路を歩く女の子のシーンなら、ロングショットで中央に女の子を配置し、「夜」「道路」を表すために街灯なんかを描いておけば十分です。前のシーンからの切り替えも自然に行えます。
参考)漫画のコマ割りや、見合った場面を描くことがすごく苦手です小さ…
ロングショットを描く際には、描き込みの工夫とブラシ選びが重要になってきます。キャラクターの全身を描くようなロングショットの絵では、細かいペンよりも「じわペン」でザザーッと描いていく方が味のある絵になって良いという意見があります。これは好みの問題もありますが、ロングショットとアップショットではブラシの使い分けが効果的なんです。
参考)ロングショットとアップショットのブラシの違いについて。 - …
漫画などの背景描き込みは大変な作業ですが、作品に臨場感を与えるために重要な要素です。人や物を遠くの視点から描くロングショットでは、人物とその周辺全体が見えるように描きます。
プロの現場では、最初にロングショットで商店街の夜景を描き、次のコマでその中を歩く2人を配置するという手順が取られます。1コマ目で物語の舞台がどこであるかを示し、2コマ目で背景を描き1コマ目の風景の中に彼らがいることを示すという流れです。
前景や背景の使い方も重要で、手前に何か物体を配置して奥行き感を強調することで、視覚的に漫画の世界観が深く感じられるようになります。ロングショットでは画面の大部分を環境や背景で埋めることで、登場人物の位置や動きがどれだけ広がり、開放感を持っているかを強調します。この時、人物は画面の下4分の1ほどに小さく描かれることが多いです。
漫画の気づくシーンで演出と感情表現を高めるためには、全体を俯瞰するロングショットを効果的に使う必要があります。これらの技法を駆使することで、読者の感情を効果的に操作し、気づきのシーンをより印象的にすることができるのです。
参考)漫画の気づくシーンで演出と感情表現
漫画制作用語の基礎知識として参考になる「ロングショット」の説明
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