
キタニタツヤが2024年1月に発表した楽曲「キュートアグレッション」は、愛情と攻撃性という相反する感情を鮮烈に描いた作品なんです。この曲のタイトルに使われている「キュートアグレッション」は、心理学用語で可愛いものを見たときに噛みつきたくなったり、ぎゅっと潰したくなるような衝動を指します。
参考)キタニタツヤ official website
歌詞には「君の心のやわいとこ」「細い首」といった生々しい身体的描写が登場しますが、これは単なる暴力衝動ではなく、愛しているからこそ傷つけたくなるという倒錯した感情の象徴として機能しているんですね。「やっぱり欲しくなっちゃうな 君の全てを」というフレーズには、支配欲や完全な一体化を求める本能的な欲求が表れています。
参考)『キュートアグレッション』歌詞考察|キタニタツヤが描く“壊し…
この楽曲は、恋愛における独占欲や執着心、自己と他者の境界の曖昧さといったテーマを扱いながら、人間心理の深層に迫っているんです。キタニタツヤは作詞作曲から編曲まで基本的に1人でパソコンを使って多重録音しながら制作するスタイルで知られており、音楽理論に基づいた緻密な楽曲構成が特徴的です。
参考)僕は、人の心の奥にあるものを見たい 気鋭のクリエイター・キタ…
楽曲における「36度あまりの君の首筋」といった具体的な温度表現や、「ルサンチマン」「hocus-pocus」といった哲学的な語彙選びが、一般的なJ-POPとは一線を画す知的で芸術性の高い世界観を構築しています。
参考リンクには、楽曲のVisualizerが公開されている公式サイトがあります。映像と音楽の融合により、キュートアグレッションの概念をより深く理解できる内容となっています。
キタニタツヤ公式サイト「キュートアグレッション」Visualizer公開ページ
キュートアグレッションという心理現象は、イェール大学の心理学者レベッカ・ダイヤーとオリアナ・アラゴンによって名付けられたもので、科学的な研究に基づいた概念なんです。人間の脳は可愛いものを見たときに感じる圧倒的にポジティブな感情に対して、感情の振れ幅が大きすぎて不安定になることを防ぐため、逆のベクトルとなる攻撃的な感情を瞬間的に呼び起こすことがあります。
参考)キュートアグレッション - Wikipedia
109名を対象にした実験では、可愛い子犬の画像と成犬の画像を比較したところ、可愛い動物を見たときほど自己抑制の度合いが強まることが分かりました。さらに90名を対象にした実験では気泡緩衝材を感情に合わせて潰すように指示したところ、可愛い映像を見たときのほうがより多くの行動が見られたんです。
サザンクロス大学の認知神経科学者アナ・ブルックスは、この現象を脳内の過剰な反応に対するフラストレーションによるものと指摘しています。可愛いものを見たときに分泌されるドーパミンは、人が攻撃的になったときにも分泌される物質であり、この混線が衝動的な行動を引き起こす可能性があるんですね。
学術誌「Psychological Science」に2015年に発表された研究では、赤ん坊の画像にポジティブな反応を示した人たちは同時に赤ん坊の頬をつねりたいなどの欲求も示しましたが、こういった矛盾のように見える正反対の反応を示した被験者のほうが感情の均衡・制御を取り戻すのに短時間であったことが明らかになりました。
この心理現象は「ディマーフィング(dimorphous expressions)」とも呼ばれ、嬉しすぎて泣いてしまう、幸せすぎて笑いが止まらなくなるといった現象と同様の原理で説明されます。つまりキュートアグレッションは、感情があふれる瞬間に現れる愛情の一形態であり、脳の安全装置としての役割を果たしているんです。
参考)キュートアグレッションとは? 可愛いものへ“攻撃衝動”のメカ…
参考リンクには、キュートアグレッションの心理的背景と具体例が詳しく解説されているサイトがあります。日常生活での実例を通じて、この現象をより身近に理解できる内容です。
ANNY「キュートアグレッションとは?心理と具体例でわかる6つの特徴!」
キタニタツヤの「キュートアグレッション」という楽曲は、単なる恋愛ソングの枠を超えて、思春期特有の生きづらさや社会への違和感を強烈に描いているんです。「思春期に壊れちゃって 直せなくなった」という冒頭の一節は、自分自身がどこかで壊れてしまったという自己認識を極めて直線的な言葉で表現しています。
「こんな化け物にだって 親がいたりするんだ」という歌詞からは、主人公が自分自身の衝動性や逸脱を"モンスター"という言葉で表現しつつも、それを完全には否定していない複雑な心理が読み取れます。この"モンスター的自我"は、社会に対する批判や疎外感とも結びついており、「大人はみんなペテン師さ!」というストレートなセリフは既存の価値観への痛烈なアンチテーゼとなっています。
キタニタツヤはボカロPとしての活動からキャリアをスタートさせており、ボカロで曲を作るときは音の一つ一つを緻密に詰め込むスタイルが現在の楽曲制作にも影響を与えているんです。彼は「音楽って芸術だから、ふとしたひらめきでそのまま突っ走っちゃったほうがいいときもあるけど、理屈っぽいことも悪いことではない」と語っており、理論と感性のバランスを重視した創作姿勢が窺えます。
「無責任な人もいるね」「可哀想って言葉に沿って日々を装ってりゃ満足そうで」といった歌詞には、社会への冷ややかな視線が表れており、自分はその枠から外れている存在であるという強烈なアイデンティティが楽曲全体に流れています。この視点は、10代の少年が抱く理不尽さへの反発や、社会に適応できない不全感を強烈に表現しているんですね。
キタニタツヤはタイアップ曲について「ドラマやアニメなら自分のファンじゃない人、音楽好きじゃない人にまで聴いてほしいから、伝え方を工夫しないといけない」と述べており、より多くの人に届けるための表現の工夫を常に意識しています。
参考)キタニタツヤにとっての至福のオフ 〜オフに聴く音楽と、ファッ…
漫画やイラストでキュートアグレッションという複雑な心理現象を表現する際には、矛盾した感情の共存を視覚的に示すことが重要になってくるんです。可愛いキャラクターを描きながら、同時に攻撃的な要素や緊張感を盛り込むバランス感覚が求められます。
参考)キュートアグレッションと棒人間
表情の描き方としては、目を細めて笑顔を浮かべながらも手や歯に力が入っている様子を描写することで、愛情と攻撃性の二面性を表現できます。頬を赤らめたり汗をかいたりといった生理的な反応を加えることで、抑えきれない感情の高ぶりを視覚化することも効果的なんですね。
コマ割りや構図の工夫も重要で、可愛い対象を見つめるキャラクターのアップを大きく配置し、その周囲に小さなコマで「ギュッと抱きしめたい」「つまみたい」といった衝動的な想像や妄想シーンを配置する手法があります。これにより読者は主人公の内面で渦巻く複雑な感情を直感的に理解できるんです。
参考)https://www.pixiv.net/tags/%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
効果線やトーンの使い方も表現の幅を広げます。可愛い対象の周りにキラキラとした効果を配置しつつ、主人公の背後には不穏なトーンやギザギザした効果線を配置することで、ポジティブな感情とネガティブな衝動が同時に存在する状態を表現できます。
セリフやモノローグでは、「可愛すぎて食べちゃいたい」「壊れちゃうくらいぎゅっとしたい」といった比喩表現を使うことで、読者が共感しやすい言葉で感情を伝えられます。ただし過度に暴力的な表現は避け、あくまで愛情から来る衝動であることが読者に伝わるような文脈作りが大切なんです。
参考)キュートアグレッションとは?心理と具体例でわかる6つの特徴!…
キャラクター設定として、感情の振り幅が大きい人物や、自分の感情をコントロールすることに葛藤している人物を描くことで、キュートアグレッションという現象の本質により迫ることができます。思春期のキャラクターや、普段は冷静だけど特定の対象に対してだけ理性が崩れるギャップのあるキャラクターなどが適しているでしょう。
参考リンクには、キュートアグレッションを棒人間イラストで表現した実例を紹介しているサイトがあります。シンプルな線画でも感情を効果的に伝えるテクニックが学べます。
イラストプレゼン講師かわしりみつはる「キュートアグレッションと棒人間」
キタニタツヤの楽曲制作における最大の特徴は、その独特な言葉選びと音楽理論に裏打ちされたサウンドデザインにあるんです。彼は「優しさと狂気のあいだ」を絶妙に表現する詩的センスを持ち、「36度あまりの君の首筋」のような具体的な数値を用いた表現で、抽象的な感情をリアルに描き出しています。
楽曲制作のプロセスについて彼は「考えないと出てこない。楽器も何も持たず、パソコンの前で悩んでいる時間が一番多い」と語っており、理屈っぽく考えながら作るスタイルを採用しているんです。たとえメロディがつるっと出てきても、一度楽譜に起こして1日置いて聴き返すまで本当にいい曲なのか考える慎重さがあります。
音楽理論については独学で勉強したと述べており、「この理屈でこうなってるんだ!」といい音楽の秘密が分かることに喜びを感じているんですね。ボカロPとしての経験から、音の一つ一つを緻密に詰め込むスタイルが現在の楽曲のクオリティを底上げしていると考えられます。
キタニタツヤのサウンドは「R&Bテイストを持つ、空間の広がりを感じさせる次世代ロックサウンド」と評されており、ポップでありながらハードボイルドな独自の世界観を構築しています。多彩なアプローチに織り込むオルタナティブな感覚が大きな特徴で、アニメから得たインスピレーションをサウンドに変換する能力にも長けているんです。
参考)キタニタツヤ【CHATTING MUSIC おしゃべりしたい…
漫画制作においても、こうした音楽的なアプローチは参考になります。言葉や絵のリズム感、静と動のバランス、感情の高まりと落ち着きの配置など、音楽の構成要素は漫画のコマ割りやストーリー展開にも応用できるんです。キタニタツヤが語る「カオス感こそJ-POPの良さ」という考え方は、漫画においても多様な要素を組み合わせて独自性を生み出すヒントになるでしょう。
参考)『青のすみか』キタニタツヤ カオス感こそJ-POPの良さだと…
彼は「漫画や音楽は、作り手の"人間の形"がダイレクトに届くから好き」と述べており、創作物を通じて作者の内面や価値観が表れることの重要性を強調しています。この姿勢は、漫画を描く際にも自分自身の経験や感情を誠実に作品に反映させることの大切さを示唆しているんです。
参考リンクには、キタニタツヤのクリエイティブ論や価値観について詳しく語られているインタビュー記事があります。音楽制作のプロセスや創作への向き合い方が具体的に理解できます。