
ハーフトーン効果は、漫画制作において画面に深みと立体感を与える重要な技法です。小さなドットの集合で陰影や中間調を表現するこの手法は、モノクロ漫画で色の違いやグラデーションを再現するために古くから使われてきました。デジタル化が進んだ現在では、専門的な知識がなくても簡単にプロ級のハーフトーン効果を作成できるようになっています。
参考)https://zenn.dev/flankids/articles/75b407d868382a
ハーフトーンとは、画像を小さな点の集合で表現する技法のことを指します。もともとは印刷技術として発展し、異なるサイズや密度のドットの組み合わせで色や陰影を表現する方法として使われてきました。
参考)【Photoshop講座】ハーフトーンを使ってコミック風のデ…
漫画を描く人にとっては「スクリーントーン」という言葉の方が馴染み深いかもしれません。実際、ハーフトーンの中でも最も一般的なのが「アミトーン」と呼ばれる網点トーンです。マンガのジャンルを問わず幅広く使用されており、影の部分などでグレーになっているところをよく見ると、小さなドットがたくさん並んでいるのが確認できます。
この技法の面白いところは、1インチの中に入るドットの数と濃度によって濃淡が表現される点です。ドットが密集している部分は濃く見え、疎らな部分は薄く見えるという視覚効果を利用しています。
参考)効果的なトーンの使い方:トーンの選び方とアナログ・デジタルト…
ハーフトーン効果の主な用途
3Dのグラフィックスでは繊細なグラデーションで陰影をつけることができますが、あえてハーフトーンによって陰影をつけることで印象的なビジュアルやコミカルな雰囲気を作り出すことができます。
デジタルツールを使えば、従来のアナログ作業と比べて圧倒的に効率的にハーフトーン効果を作成できます。特にメディバンペイントやクリップスタジオなどの漫画制作ソフトには、専用の機能が搭載されています。
参考)漫画のハーフトーン(網点)の簡単な作り方
メディバンペイントでの作成手順は非常にシンプルです。まず、新規に8bitレイヤーを作成します。このレイヤーが今回のカギとなります。次に、お好みのブラシでハーフトーンにしたい部分を灰色で塗っていきます。影をつけたい場所や髪の毛、服など用途に合わせて灰色の濃さを変えながら塗っていくのがポイントです。
塗り終えたら、8bitレイヤーの横の歯車を押して、ハーフトーンを「アミ点」に設定します。すると、灰色で塗られていた場所がその濃さに応じてハーフトーン化します。次に「線数」を設定しますが、線数を下げるとドット(点)が大きく粗くなり、上げるとドットが小さく細かくなります。
デジタル作成の利点
従来のアナログ作業では、素材から選んで、イラストの上に貼って、必要ない部分を消しゴムツールで消していくという手間がかかっていました。しかし8bitレイヤーを使った方法なら、あっという間にハーフトーンにすることができます。
参考リンク:メディバンペイントの公式ガイドには、ハーフトーン作成の詳しい手順が動画付きで解説されています。
漫画のハーフトーン(網点)の簡単な作り方 - MediBang Paint
ハーフトーン効果を効果的に使うには、線数とパーセントの理解が不可欠です。線数とは、1インチの中に入る網点の列の数を指します。線数の数値が大きいほどドットが細かくなり、小さいほどドットが粗くなります。
最もよく使われる線数は、一般的な商業漫画では60線から85線程度とされています。60線は比較的粗めの質感で、少年漫画などで力強い表現をしたい場合に適しています。一方、85線は細かく繊細な表現が可能で、少女漫画や青年漫画で使われることが多いです。
パーセントは、トーンの濃さを示す数値です。10%は非常に薄く、ほとんど白に近い印刷になります。30%から40%は標準的な影の表現に使われ、60%以上になると濃いグレーから黒に近い表現になります。
線数選びの注意点
用途 | 推奨線数 | 特徴 |
---|---|---|
力強い表現 | 60線前後 | ドットが大きく粗い質感 |
標準的な表現 | 70線前後 | バランスの良い汎用性 |
繊細な表現 | 85線前後 | きめ細かく滑らかな質感 |
重要なのは、原稿と印刷物とのサイズの差に注意することです。原稿を縮小して印刷する場合、線数も同じ比率で細かくなります。そのため、最終的な印刷サイズを考慮して線数を選ぶ必要があります。
参考リンク:Adobe公式ブログでは、トーン選びの詳細な解説とアナログ・デジタル両方の貼り方が紹介されています。
モノクロのハーフトーン効果だけでなく、カラーハーフトーンを使うことでポップで印象的な表現が可能になります。カラーハーフトーンとは、背景などに使われる水玉模様の一種で、水玉ドットが均一ではなく、だんだんと小さくなっていくのが特長です。
参考)とっても簡単!CLIP STUDIOでカラーハーフトーンを作…
クリップスタジオでのカラーハーフトーン作成は、通常のハーフトーンとは少し異なる手順を踏みます。まず、キャラクターだけのレイヤーを用意し、その下に背景用のレイヤーを作ります。次に、キャラクターを選択範囲として作成し、選択範囲を拡張します。拡張する幅は大きめの数字を入れるのがおすすめで、70程度が適切です。
選択範囲に色をつけた後、「フィルター」→「ぼかし」→「ガウスぼかし」と進み、選択範囲をぼかします。ぼかす範囲は広めにすると、雰囲気が出やすくなります。そして、ぼかしたところを「レイヤープロパティ」の「トーン変換」で水玉ドットに変換します。
カラーハーフトーンのアレンジ方法
色をグラデーションにすると、表紙やポスターのような面白い雰囲気になります。イエローからピンクに変わる設定など、自由な色の組み合わせが楽しめます。
ハーフトーン効果は単なる影の表現だけでなく、様々な演出に活用できます。Photoshopの「ハーフトーンエフェクト」を使ってコミック風のデザインを作る方法も注目されています。
画像をドットで表現できるこの機能は、印刷物やコミックのようなスタイルを再現するのにぴったりです。Photoshopでは「フィルター」→「ピクセレート」→「カラーハーフトーン」を選択し、最大半径(ドットの大きさ)を調整することで、数値を大きくすると粗く、小さくすると細かくなります。
実際の漫画制作では、グレースケール化して異質なイメージを強調したり、不規則な形で囲んで紙面から切り取ってきたような印象を作り出したりします。細かいドットのパターンを追加することで、よりポップで二次元的な表現に落とし込むこともできます。
プロが使う演出テクニック
スパイダーバースのような映画では、3D映画ながら往年のアメコミ雑誌のような印象を与える効果が盛り込まれており、基本的な陰影はグラデーションで表現されていますが、リムライト(逆光)の境界のグラデーションにハーフトーンが使われています。このように、エッセンス的にハーフトーン表現を使うのも面白い手法です。
白と黒だけでは表現できない中間調や質感を、ハーフトーン効果によって豊かに表現できます。トーンを貼る前と後では、画面の印象が大きく変わり、キャラクターや背景に立体感と深みが生まれます。また、影や物の色など様々な用途があり、ジャンルや作家によっては網点のみのトーンでマンガを描く方もいます。
ただし、多用しすぎると画面全体がグレーになってしまい、メリハリがなく見にくくなるので、バランスを見ながら使用する必要があります。効果的にハーフトーンを使うには、白・黒・グレーの配分を考え、読者の視線を誘導する構図作りが大切です。
漫画制作においてハーフトーン効果は、初心者でもプロ級の仕上がりを実現できる強力なツールです。デジタルツールの進化により、かつては専門的な技術が必要だった表現も、簡単な操作で実現できるようになりました。線数やパーセント、色の使い方を理解し、様々な演出方法を試すことで、自分だけの表現スタイルを見つけることができます。