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「鬼人幻燈抄」の主人公・甚太(後に甚夜と改名)は、江戸時代の刀鍛冶の村「葛野」で生まれ育った青年です。物語の始まりでは、巫女「いつきひめ」こと白雪の護衛役を務めていました。彼の人生は、妹・鈴音が鬼に堕ち、最愛の人・白雪を殺害したことで大きく変わります。
甚夜自身も戦いの中で「同化の鬼」との戦闘により、左腕を鬼の腕に植え替えられ、半鬼の存在となります。この出来事が彼を「鬼人」へと変貌させる転機となりました。
甚夜の特徴として、強い責任感と自分の行いを決して忘れない性格が挙げられます。彼は常に「あの時自分がこうしていれば…」と過去の出来事を振り返り、一人で責任を背負い込む傾向があります。この誠実さと自分の正義に忠実な生き方が、多くの読者の共感を呼んでいます。
彼は41歳という年齢でも剣の腕前は衰えず、鬼退治の名手として名を馳せていきます。江戸から平成まで続く長い時間の中で、甚夜は自分の道を見つけ、成長していく姿が感動的に描かれています。
甚夜と鬼の関係は非常に複雑です。彼自身が半鬼となったことで、鬼を憎みながらも自らもまた鬼の一部を持つという矛盾を抱えています。
物語の初めに登場する「同化の鬼」は、他の鬼の力を吸収する能力を持ち、甚太(甚夜)に討たれる際に自身の左腕を甚太に植え付けました。これが甚夜を鬼化させる直接的な原因となりました。
また「遠見の鬼」は、死に際に百七十年後の未来を予言し、妹・鈴音が現世を滅ぼす災厄となり、甚夜との殺し合いの末に鬼神が生まれると告げます。この予言が甚夜の長い旅の始まりとなりました。
作品内では「鬼は嘘をつかない」という設定があります。これは強い想いによって鬼が生まれるとすれば、その想いに反することはできないからだと考えられます。しかし「天邪鬼」と呼ばれる嘘をつく鬼も存在し、甚夜はそのような存在とも対峙していきます。
甚夜の友人である薫も実は百年以上の付き合いがある鬼であることが明かされるなど、甚夜の周囲には様々な鬼が存在し、彼の人生に影響を与えています。
甚夜の物語は、江戸時代から始まり、明治、大正、昭和、そして平成へと続く壮大な時間軸の中で展開します。各時代での甚夜の姿は、その時代背景と共に丁寧に描かれています。
江戸時代、甚夜は葛野の村で巫女の護衛を務める若者でした。しかし、妹・鈴音の鬼化と白雪の死をきっかけに、彼は旅立ちます。江戸の町では剣士として成長し、鬼退治の名手として名を馳せていきます。
明治時代になると、西洋文化の流入と共に変わりゆく日本の中で、甚夜は自分の立ち位置を模索します。刀を持つことの意味が変わりつつある時代の中で、彼は自分の信念を貫き通します。
大正時代には「紫陽花の日々」と題された物語が展開され、甚夜の人間関係や内面の成長がより深く描かれます。昭和、平成と時代が進むにつれ、甚夜は様々な出会いと別れを経験し、鬼としての自分と人間としての自分の狭間で葛藤しながらも成長を続けます。
この時代を超える旅は、単なる時間の経過ではなく、甚夜という一人の人物の精神的な成長と、彼が守りたいと思う価値観の変遷を表しています。
甚夜の長い人生には、多くの重要な人物が関わっています。まず、物語の発端となる妹・鈴音は、甚夜にとって最も複雑な感情を抱く相手です。鈴音は白雪への嫉妬から鬼と化し、白雪を殺害しますが、甚夜との因縁は物語全体を通じて続いていきます。
白雪は甚夜が最も愛した女性であり、彼女の死は甚夜の人生を大きく変えるきっかけとなりました。彼女は「いつきひめ」として葛野の村で崇められる存在でした。
物語が進むにつれて登場する直次は甚夜の友人となりますが、甚夜が鬼の姿を晒したことで関係に亀裂が入ります。この出来事は、甚夜が鬼として生きることの難しさを象徴しています。
また、物語の中で甚夜は捨て子の娘を引き取ることになります。この娘の存在は、不死の鬼となった甚夜にとって、唯一の弱点であり、同時に人間としての感情を保つための重要な絆となります。
さらに、平成の時代では「終の巫女」と呼ばれる人物も登場し、甚夜の長い旅の終着点を示唆する存在として描かれています。
「鬼人幻燈抄」における甚夜の最大の魅力は、彼の複雑な内面と成長の過程にあります。鬼と人間の狭間で生きる彼の葛藤は、読者に深い共感を呼び起こします。
特に印象的なのは、甚夜が「天邪鬼の理」の章で経験する幻影の世界です。ここでは、甚夜が白雪と結婚し、平穏な日々を送る別の可能性が描かれます。しかし、甚夜はその甘い幻想に流されることなく、現実に向き合う強さを持っています。この場面は、彼の意志の強さと同時に、心の奥底にある願望を垣間見せる重要なエピソードです。
また、甚夜と人斬りとの剣の対決シーンも見どころの一つです。一見クレイジーな人斬りが、剣技については誰よりも冷静で合理的である様子と、様々なことを考えすぎる甚夜との対比が鮮やかに描かれています。
作品全体を通して、甚夜の「自分の行いを決して忘れない」という性格が彼の行動原理となっており、これが読者の心を打ちます。彼の誠実さと自分の正義に忠実な生き方は、ファンタジー作品でありながらも現実的な重みを持っています。
さらに、江戸から平成までの日本の変遷を背景に、甚夜が「刀を振るう意味」を問い続ける姿勢は、伝統と変化、過去と未来の狭間で生きる現代人にも通じるテーマとなっています。
「鬼人幻燈抄」は2025年3月に堂々完結を迎え、アニメ化企画も進行中とのことで、今後さらに多くの読者に甚夜の物語が届けられることでしょう。
鬼人幻燈抄の公式サイト - 双葉社での完結情報や各巻の紹介が掲載されています
「鬼人幻燈抄」は単なる和風ファンタジーの枠を超え、人間の本質や生き方を問う深い物語となっています。甚夜という一人の人物を通して描かれる170年の歴史は、読者に様々な感情と考えをもたらします。鬼と人の狭間で生きる甚夜の姿は、現代を生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれるでしょう。
物語は全14巻で完結し、葛野編から始まり、江戸編、幕末編、明治編、大正編、昭和編、平成編と時代を追って展開します。各時代の風景や文化が緻密に描かれており、歴史小説としての側面も持ち合わせています。
甚夜の長い旅は、最終的に「終の巫女」との出会いによって一つの結末を迎えますが、その道のりには多くの試練と感動が詰まっています。鬼と人間の複雑な関係性、時代を超えて受け継がれるものの価値、そして一人の人間(あるいは鬼人)の成長と覚悟—これらのテーマが見事に織り込まれた「鬼人幻燈抄」は、長く読者の心に残る作品となるでしょう。
甚夜の物語を通して、私たちは自分自身の中にある「人間らしさ」とは何かを考えさせられます。それこそが、この作品の最大の魅力ではないでしょうか。