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「鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々」は、中西モトオによる和風ファンタジー小説シリーズの第1巻です。物語は江戸時代、わずか5歳の少年・甚太が1つ年下の妹・鈴音を連れて家出したところから始まります。父親による鈴音への虐待が原因でした。
雨の中途方に暮れる二人の前に「巫女守」を名乗る男・元治が現れ、彼らを拾い上げます。元治が住む山間の集落「葛野」に連れられた甚太と鈴音は、元治の娘で巫女である白雪と出会います。
時は流れ、13年後。甚太はよそ者でありながら葛野に受け入れられ、元治の後を継いで「巫女守」となっていました。産鉄を生業とする葛野では、火を守る巫女「いつきひめ」が尊ばれており、甚太は白雪の護衛役を務めています。
ある日、葛野を囲む森で異形の姿が目撃されます。それは「鬼」と呼ばれる存在でした。白雪から「鬼切役」を拝命した甚太は、鬼討伐に向かいますが、そこで遥か未来を語る不思議な鬼に出会います。この出会いが、甚太の運命を大きく変えることになるのです。
「鬼人幻燈抄 葛野編」には、読者の心を掴む魅力的なキャラクターが多数登場します。
まず主人公の甚太は、剣の達人でありながら内面に葛藤を抱える複雑な人物です。妹・鈴音への深い愛情と、白雪への忠誠心の間で揺れ動く姿が描かれています。「まっすぐ過ぎるがゆえに、自分の信念を曲げられない」という性格が、物語の展開に大きく影響していきます。
妹の鈴音は、物語の中で重要な役割を担う存在です。彼女の「正体」については序盤から伏線が張られており、読者の興味を惹きつけます。甚太が「鈴音と白雪のどちらの手を取るか」という選択は、物語の大きな分岐点となっています。
葛野の巫女・白雪(白夜)は、「いつきひめ」として尊ばれる存在です。温かく優しい性格で、見ず知らずの甚太と鈴音を迎え入れました。
また、葛野の長の息子・清正も重要なキャラクターの一人です。当初は甚太に敵対的な態度を取りますが、その背景には自分の境遇への疑問や葛藤があります。表面的には強く当たりながらも、心根の優しさを持つ人間味あふれるキャラクターとして描かれています。
これらのキャラクターたちの複雑な関係性と内面の変化が、物語に深みを与えています。
「鬼人幻燈抄 葛野編」の最大の魅力の一つは、時間と愛の描写の深さにあります。この物語は単なる和風ファンタジーにとどまらず、恋愛、アクション、友情、家族愛など、多様な要素が絡み合った重層的な作品となっています。
特に「人の愛」は物語の中心テーマの一つです。登場人物たちの行動原理や様々な事件のきっかけは、愛に基づいています。葛野という土地への愛着、そこに暮らす人々への思い、家族への愛情、そして人間と対峙する存在である鬼にも彼らなりの事情があります。これらの愛情が複雑に絡み合い、物語を前進させていきます。
また、この作品の大きな特徴は、江戸から平成までの170年という壮大な時間軸です。「葛野編」はその始まりに過ぎず、主人公・甚太が「遥か遠い未来を目指す」という設定からも、時間を超えた壮大なスケールの物語であることが伺えます。
「あなたはなぜ生きていくのですか?」という問いかけも物語の中で重要な意味を持ちます。刀を振るう意味を問い続けながら、愛する人を守り抜くために途方もない時間を旅する甚太の姿は、読者の心に深く響きます。
「鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々」は、2021年5月13日に待望の文庫化が実現しました。中西モトオのデビュー作でもあるこの作品は、単行本発売時から全国の書店員から大きな反響を得ていました。
「ファンタジーという枠を超越した『すごく面白い小説』に出逢えてとても嬉しい!!」「壮大な物語がここから始まる。悠久の時を経て出会うであろう運命に導かれた者たちを置い続けたい」といった声が上がるなど、多くの読者の心を掴んでいます。
また、「鬼人幻燈抄」シリーズは小説だけでなく、様々なメディアでも展開されています。2020年には舞台化され、さらにコミカライズ版も発売されています。2021年9月9日には文庫本第2巻と、里見有によるコミカライズ版第1巻が同時発売されました。
テレビCMも放映されており、ナレーションを担当した声優・八代拓は「最後まで見届けたい!」と語るほど作品の世界に魅了されたと明かしています。
現在、小説版は7巻まで刊行されており、今後の展開にも注目が集まっています。
「鬼人幻燈抄 葛野編」が多くの読者の心を掴む理由は、巧みな伏線の張り方と予測不能な展開にあります。特に鈴音の「正体」に関しては、物語の序盤から複数の伏線が張られています。
「だから願った。この娘が何者だとしても、最後まで兄でありたいと。」という甚太の内面描写は、鈴音の正体に関する重要な示唆となっています。また、甚太が「鈴音と白雪のどちらの手を取るか」という選択も、読者の興味を惹きつける大きな要素です。
しかし、この作品の魅力は、伏線が回収された後も予測不能な展開が続くことにあります。鈴音の正体が明らかになっても、その先の物語の行方を予想できる読者は少ないでしょう。
また、この物語は「起承転結」の「起」に当たる部分であり、壮大な物語のプロローグに過ぎません。それでいて、この第1巻だけでも恋愛やアクション、友情、家族愛など様々な要素が詰め込まれており、読者を飽きさせません。
「これだけいろんな要素を楽しませていただきましたが、まだまだこれからなんだ!」という声があるように、この物語は読者に「続きが気になる」という強い感情を抱かせます。それこそが、「鬼人幻燈抄 葛野編」が多くの人々の心を掴む最大の理由なのです。
切なくも美しい物語、予測不能な展開、魅力的なキャラクターたち、そして江戸から平成までを描く壮大なスケール。これらの要素が絶妙に絡み合い、読者を虜にする作品となっています。